3月15日仙台文学館にベトナム若手女性作家 ドー・ホアン・ジュウさんの講演を聞きに行ってきました。
日本で翻訳出版されていないこの作家を私が知ったのは今回の講演のチラシで、音楽でいうところのジャケ買い。
事前に本を読んでみようと思ってネットで検索するも出版物どころか彼女の情報が今講演以外に出てこない。
そこで今回の主催者である独立行政法人国際交流基金に問合せたところ、今のところ日本での出版されている本もないとのこと。
ってことは事前に作品を読めない状態で作家の講演を聞くのか?とちょっと微妙だな〜。と思ったら、当日に短編小説を翻訳したテキストを配布するとのこと。
それなら尚更参加しないと。
ベトナムでは日本では考えられないほどの検閲があり、今回の講演・来日も本当に大変だったようです。
そんなベトナムで出版された彼女の作品はベトナム社会ではとてもタブーなもの。
まれに見るほど小さくてやわらかい手の持ち主の主人公の女性が旦那の実家(とても田舎で閉鎖的な村)に義父の法事で行ったときの話し。
その実家で起こる不思議な体験。
法事の夜旦那の実家に泊ることになった主人公夫婦は、義父の仏壇のある部屋に泊ることになる。
そして主人公の彼女は夜な夜な仏壇の前で得体の知れない何者かに強姦され・・・・。というお話し。
ベトナムについて勉強不足の私には詳しいことは分からないが、この話しの背景に潜むベトナム戦争後の現代ベトナムの文化的・社会的状況がとても良く表現されていて短編とは思えないとても読みごたえのあるモノだった。
そしてそんな彼女はいつも公安に目をつけられているらしく、先にも述べたが今回に来日は本当に危険なものだったみたい。
講演の最後にアンケート用紙による質疑応答があり(この方法は良いよね。挙手による質問ってしたくても俺恥ずかしくて出来ないから)
そんな彼女に
「矛盾だらけで崩壊寸前の資本主義社会や名ばかりの民主主義社会のこの世の中で、社会主義社会の中で戦っている作者はこのような資本主義・民主主義社会をどのように思うか。そして作者が理想とする新たな世の中(社会)とはどういうものか?」
と質問を書いたら(実際に質問が取上げられたときは結構削られてしまったが)
彼女から返ってきた答えは。
「私は作家であって政治家ではないので社会を変えたいとか社会に対してどうのこうのはないけど・・・」
って前置きして「もっと自由に発言ができもっと自由に生活が出来ればいいですね」
という答えが返ってきました。
少々ビックリする答えでした。
本の中ではいくら比喩的でフィクションとはいえ明らかにベトナム社会へ問題提起しているものではないのか?
それも聞けばヌードも当然禁止で、ヌードどころかって感じの社会で仏壇の前で強姦の話しを書いていながら(笑)
そのギリギリのところで戦うのが作家であったりもするのだが。
しかし講演中も、ベトナムの歴史の流れ等については語られど作品との結びつきや作者の思想までは言及せず、政治家じゃないから社会については語れないという。。。
講演の原稿にも検閲が入ったとかっていうようなこともチラっと言ってたしな。
これはやはり公安等の問題での発言なのか。どうなのか。。
最初はちょっとモヤモヤ感が残った。
がしかし、私の心が動いたことは事実であり、直接的な言葉で作者が作品について語らなくても、作者がどこの誰であろうと世界を変える力があるのだということを再確認させられた。
私も全然レベルは違えども作家として、そういう質問ばっかされると、たまに「作品観て感じたままでいいよ。それが答えです」
って言いたくなるからな。
そんな彼女が最後に「知合いのジャーナリストや周りの人々に今回の来日は本当に危険だから辞めるようにと進言されたが、私は公安なんて怖くないし、それらが来日を諦める理由や、作家活動を辞める理由には決してならない。だから私は日本に来た」
と力強く言っていて、とても心を打たれたと同時にこの言葉にこそ彼女と彼女の作品・ベトナムに対する真実、思いがあるのだと伝わってきた。
そして彼女のパワーを少しもらえた気がした。
そんな彼女の最新作に長編小説「蛇と私」があるが、国内での出版許可は得られていない。
早く無事出版されることを心待ちにしている。
彼女の短編「金縛り」「ハンセン病の川」はターンアラウンドにあるので興味のある人は貸出しします。
キンヤ