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三陸万玉・自然からの贈り物−認知症予防的実験的作業療法−

2018.08.11 Saturday | ギャラリー情報

三陸万玉・自然からの贈り物
−認知症予防的実験的作業療法−


mini作業療法キット “Rolling Stones 3000”.jpg
近江三喜男
「作業療法キット “Rolling Stones 3000”」
2018年


会期|
 2018年8月14日(火)-19日(日)
 11:00~19:30、最終日16:30迄

会場|
 Gallery TURNAROUND
 宮城県仙台市青葉区大手町6-22久光ビル1F
 入場無料


三陸万玉・自然からの贈り物
−認知症予防的実験的作業療法− 

近江三喜男


 人口の高齢化に伴って認知症患者の割合は年々増加の一途を辿っているが、高齢になっても脳機能が維持されている人も珍しくはない。専門家によれば認知症予防的対応の一つとして知的行動習慣(読み書き、計算、塗り絵、折り紙、ゲーム、パズルなど)が示され医療や介護の場では常識となっている。私は医師ではあるが認知症に関しては素人に近い。
 今回は三陸海岸の浜(広田半島・小祝浜と田野畑村・ハイペ海岸)で波に洗われ太陽に輝く美しい石たちの写真を素材として、指先を動かし写真を切り揃え、配置を考え組写真を作成する作業によって、認知症予防目的とし知的行動習慣の改善の試みを行った。因みに私の父は血管性、母はアルツハイマー型認知症であり、今回の試みは言わば認知症予防的”実験的“作業療法であり、作品は細かい写真、数千〜万枚を用い作業療法で作製された組写真群である。

 私は3.11の時は広田半島の診療所で仕事をしていた。津波のダメージは大きく生活も困難であった。一方、過大な精神的ショックのためか、それまでは気付かなかった足元の小さな自然に目が向きそれがとても愛おしく感じられた。津波ショックにより美に対する感覚閾値が変化したと思われる。小祝浜では美しい模様の石の写真を飽きるほど撮った。撮影時は単純に美しい石の写真を撮ったつもりでいたが、PCに取り込み編集作業を行うと多くの”類像(simulacra)*“に遭遇した。編集作業では明るさ、色合い、コントラストなどを変化させたが、一段と美しい色彩の画像が得られ(この操作を“電脳的絵取り”と名付けた)、想定外の”美のスペクトル“の広がりに驚かされた。プリントした写真を台紙に切り貼りし(”タイル貼り“)組写真にすると美の世界がさらに拡がった。タイル貼りでは写真をランダム配置、単純配置、リズム感のある配置や同一写真4枚による万華鏡的回転配置などを試みた。これらは単なる美しい石の写真とは趣を異にする種々の美的要素が加味されて楽しい画像の創出となった。
 デジカメを携えて浜で波に追われつつ写真を撮り、PC上で編集作業を行いプリントし、切り貼りして美しい組写真を創出し“知的行動習慣”を体得する。この認知症予防的作業療法はデイサービスや介護施設で行われている定型的な認知症予防的作業療法に比較してより興味深い内容と思われた。

 今回の作業療法を通じて以下のことが推測される。
1)「類像の発見〜電脳的絵取り〜美のスペクトルの分析〜写真のプリントと切り出し〜タイル貼り」の一連の作業が脳機能を活性化させる。
2)回転配置や単純で揺れるようなリズムの配置が脳を刺激し眩暈を誘発する。
3)美は自然を手本に考えられ進化し、古来好まれる模様には単純な模様の繰り返しリズムを伴うものが多いことから、これら1〜3)は脳機能の近い領域に属する機能を反映しているものと考えられた。

 認知症予防には食習慣、運動習慣、対人接触、知的行動習慣、睡眠習慣が重要とされる。今回の認知症予防的実験的作業療法は知的行動習慣の改善に役立つと思われる。類像の発見からタイル貼りまでの一連の作業と美の認識は、衰えゆく認知症患者の脳機能に原初的なレベルで呼応するものがあり、この予防的作業療法の効果が期待できる可能性が大きいと推測される。
 ただし、この人体実験的試みの限定的個人的結論を得るに当たっても、私が飽きることなくこの作業を継続することが最も困難な基本的必要条件となっているところに最大の問題がある。
 
*類像(simulacra):3点が作る図形があれば人や動物の顔に見えるとする虚像であり、古く 人類の脳細胞にプログラムされた脳機能である。あたかも夜陰に紛れて人間を襲う獣に対する自己防衛の為の脳の仕掛けと考えられる。




◎略歴
近江 三喜男 (おおみ みきお)
1948年、岩手県生まれ。1973年、東北大学医学部卒業。東北大学胸部外科(現、心臓血管外科)、南カリフォルニア大学(米国)、山口大学第一外科などで心臓血管外科を専門に仕事に従事。2004年、国立仙台病院(現、仙台医療センター)心臓血管外科医長、東北大学医学部臨床教授を経て、2006年4月から陸前高田市国民健康保険広田診療所所長、2017年1月から国民健康保険田野畑村診療所所長。現在に至る。
著書に、『広田の神様・仏様 ぐるっと参り』(2015年2月)、『広田半島の宝石箱 2015』(2015年10月)、『ジンジョウ海岸への誘い』(2016年3月)、『浜の類像・変像図鑑』(2016年11月)(文芸社)、『トリイの浜』(2018年1月)がある。
主な展覧会に、写真展「広田半島の宝石箱」(ドイツ、デュッセルドルフEKO-Haus日本文化センター/2017年3月)、展覧会「広田半島の宝石箱(電脳的絵取りと美のスペクトル分析)」(仙台、Gallery TURNAROUND/2018年3月)がある。


◎Facebook「三陸万玉」 @SanrikuMangyoku




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